MAIN DISH

プロローグ「WELCOME to the FUTURE」〜ヤマダイ食品の再定義〜

調理場でシェフが焼き上げた一皿が、何事もなかったかのように運ばれてくる。

重たい鉄皿が、静かにテーブルに置かれる。
焼きたてのステーキから、香ばしい香りが立ち上がり、思わず唾をのんでしまう。

――そこに、なんの違和感もない。だれもが予想した通り、その一皿はおいしい。思わず舌鼓をうってしまうほど。
そして食べ終えたあと、こう告げられる。
「これは、(動物性)肉ではない」と。

最初からそう言われていれば、きっと身構えただろう。
しかし、「料理」として、そこにある。

だからこそ、皆が口をそろえてこう言うのだ。
「Incredible!」

違和感に、気づけない。
それこそが、ヤマダイ食品がこれから世に出す
インクレディブルステーキの、はじまりである。

 

違和感から始まった―「今」この一皿を出す理由

編集部(以下、編): まさに「インクレディブル(信じられない)」な商品が2026年1月に日米同時発売されるわけですが、まずはどんな狙いでこの商品が生まれたのか教えてください。

樋口:実は、私たちは以前から牛丼やガパオ丼の具など、植物性由来原料は扱ってきました。ただ、当時は国内マーケットが未成熟だったことに加え、ずっと「違和感」を感じていたんです。それは、単純に「おいしくない」ということ。

これまでいろいろと試してきましたが、従来のプラントミートは「肉の代わり」という我慢の上に成り立っていた。海外、特に中東や欧米ではベジタリアンメニューがないとクレームになるほど浸透していますが、もともと肉を食べていた人たちが、環境や動物保護のために「志向性」から肉を食べないという選択をしている。彼らは本当は美味しい肉の味が好きなはずなのに、美味しくないものを我慢して食べているんじゃないか、と。

さらに言えば、実際にベジタリアンメニューを食べてみると、「主菜という名の前菜」で終わってしまうような、軽いものが多い。食べてもお腹がいっぱいにならない。それって食としてどうなのかな、という疑問もありました。

編: ご自身も、普段からベジタリアンメニューを食べられていたんですか?

樋口: はい。あえて選ぶというより「よくわからないものは食べてみる」という考えです。海外に行くと、ベジタリアンメニューを頼んだ上でさらにメインの肉も頼んだりするので、いつも食べすぎていますし、同行者からクレームが入りますが(笑)。
そんな違和感を抱えていた中、たまたまアメリカ企業からの依頼で、非常に完成度の高いものが出来上がりました。これなら、我慢せずに心から満足してもらえる。技術力で「おいしくない」という最大の壁を突破できた。これがプロジェクトのきっかけの一つです。

また、50歳という節目を迎え、「次の10年で何をしようか」とビジネス展開を考えたとき、インドに出るか、中東に出るかですごく悩んだんです。最終的に中東に決めたのですが、そうなると必然的に「ハラール」というキーワードが出てくる。いろんな要素がたまたま繋がり、「今だ!」という直感でインクレディブルステーキを世に出すことにしました。

編: 中東に大きなビジネスチャンスがあったのでしょうか?

樋口: アメリカ市場は既に立ち上がっており、北米展開などは私がやらなくても誰かができる。でも「0から1」を生み出す視点に立てば、インドか中東だなと。……実は最終的にはアフリカに行きたいんです。単純に、サファリパークが大好きなので(笑)。

「グローバル化」という言葉が一般的になる前から、私はただ「世界とかかわりたい」という欲求を抱いてきました。世界の人たちが何を考えているのか知りたくて、聖書やハンムラビ法典、哲学書を読みます。ビジネスチャンスというより、みんなと関わりたいだけ。会社の大小を追うより、世界のGDPの1%くらいの存在になりたい。その過程が楽しいんですよ(笑)。

 

世界と対等に渡り合うために

編: 「インクレディブル」という名前、由来を伺ってもいいですか?

樋口: 完全に、アメリカの「インポッシブル・フーズ」と「ビヨンド・ミート」を意識しました(笑)。彼らとグローバルで並んだときに、格負けしない響きが必要だったんです。

実は候補はいくつかあって、私の一押しは『ディファレントリー(Differently)』でした。私が海外で「絶対に大丈夫だ」という意味を込めてよく使う単語なんです。でも、周囲からは「インクレディブルがいい」と。確かに英語に馴染みがなくてもどこかで聞いたことがあるし、響きがいい。世界展開を考えたとき、これ以上の名前はないなと納得しました。

編: 日・中・韓の3つの味を同時に出すのにも、戦略があるのでしょうか。

樋口: 最初はアメリカ企業からの依頼で作った、韓国の「テジプルコギ」が驚くほど完成度が高かった。そこから「日本の会社だから和の豚生姜焼きだよね」「アジア発なら中華も必要だから、回鍋肉を作ろう」と広がり、3種類を日米同時発売することに決めました。

編: 先行する巨大企業に対し、ヤマダイ食品の勝算はどこにありますか?

樋口: 圧倒的な「美味しさ」と「安さ」です。これは惣菜メーカーとして長年戦ってきた我々ならではの強みです。そして何より、今回の開発は「科学力」ではなく、純粋な「技術力」だけでやり切った。これは近いようで、全く違うものです。食品業界の中で「おいしいものをつくる」ということに関して、私は誰にも負けない自信があります。かつて師と仰ぐべき人が3人いましたが、皆さん引退されて、今は私だけになりました。

よく「十人十色」と言いますが、「300人30色」、あるいは「1万人30色」という言葉を聞いたことはありますか?あまり知られていないのですが、私は人のキャラクターは大きく分けると30通りくらいに収まるのではないかと考えています。人種や好みなど、明確な違いはありますが、その中でも、「美味しいとは何か」を真に理解し、再現できる人間はほとんどいない。これが私の、そしてヤマダイの圧倒的な強みです。

例えば、ヤマダイ食品のロングセラー商品『揚げ茄子とインゲンの和風生姜あんかけ』のルーツは、実は日本食ではありません。あまり詳しくは言えませんが、ニューヨークの某名店で、某巨匠シェフと一緒に食べた料理に衝撃を受け、その本質を再現した。今回のステーキも同じです。人が「肉を食べて美味しいと感じる本質」を、技術力で再現しました。

 

「調理」が介在することで生まれる、価値

編: この商品が「調理を前提とした業務用」である点も興味深いです。簡便性が好まれることもありますが、あえて「ひと手間」を求める意図は?

樋口: インクレディブルステーキが主戦場とするのは、アメリカの業務用マーケットです。米国マーケットでは冷凍食品を解凍してそのまま出すことにとてもネガティブです。必ずシェフの「味付け」や「火入れ」というクリエイティビティが介在します。私は、そう遠くない未来に「その食事に何%手を加えたか」という指標を公表しなければならない時代が来ると予見しています。全部レンジで温めただけのご飯と、シェフが技を振るって仕上げたご飯。どちらがいいですか?

「豚生姜焼き」を製品60gに玉ねぎ15gを和えて調理したもの

 

未来30年、「当たり前」の景色を作る

編: このプロジェクトの「未来」について教えてください。

樋口: メニューがある限り、可能性は無限です。未来を30年スパンで考えてみてください。かつて、マヨネーズやカレーのスパイスがこの世になかった時代がありました。でも今は、どこの家庭にも当たり前にありますよね。インクレディブルステーキも、同じように「社会に当たり前にある」という未来が来たら、それが成功だと言えるでしょう。

これはあくまでも第1歩にすぎません。大事なのは、どんな社会になっているか。世界中の人たちがストレスなく、笑顔で食卓を囲める景色を作りたいと思っています。

ヤマダイ食品が仕掛ける、食のパラダイムシフト。今回の「インクレディブルステーキ」は、その物語のプロローグに過ぎません。ヤマダイ食品が描く未来に向けて、世界をどう染めていくのか。どうぞお楽しみに。