
東日本大震災の少し前がこの本との出会いでした。ちょうどこの頃の私は「こんなに頑張って働いているのに事業が成長しないのはなぜだろうか」と悩みに悩み自らの無力さに嫌気がさしていた頃でした。実際、2005年度から2011年度の年間平均成長率はたったの1.7%。それがこの本に出会ってからの約13年間で、コロナ禍での苦難があったにも関わらず、年間平均成長率12%、事業規模が4.5倍になりました。この本の内容は事業家・経営者にとってとても有効なのかもしれませんので絶版ではありますが「私たちが失敗する原因のすべては、余計な考えごと、とりわけネガティブな考えごとです」から始まる著書をご紹介したいと思います。
「メンタル(心)が大事だ」ということはよく言われることですが、ではメンタル(心)とはなんでしょうか?これに対する答えがこの本の中にあります。それが「問題は、心がひたすら『より強い刺激を求めて暴走する』という特徴を持っていること」なのだそうです。「淡く穏やかな幸福感よりもネガティブな考えごとの方がはるかに強い刺激の電気ショックを脳に与えてくれる」ことが、ついネガティブな考えになってしまう原因なのだそうです。だから人は考えすぎで疲れてしまう。そのため「『考えない練習』の時間という充電をすること」を推奨しています。
第1章のお題は「思考という病〜考えることで人は『無知』になる」ですが、「脳内引きこもりが集中力を低下させること」や「人間の三つの基本煩悩-『怒り』『欲』『迷い』」についての行は、私が勝手に解釈していた煩悩と全く異なる視点から全く異なる解釈を著者が与えてくれました。「強い欲ないし『怒り』の煩悩と共に刻み込まれた情報は、心が強い執着とともに何度も繰り返して残響」すること、「すべての大本は、『目の前の現実はフツウすぎてツマラナイ、ネガティブな考えごとは刺激的』という理由から人はネガティブに走ってしまう」ことに】は納得できました。また「多くの方が年を取るにつれ『最近は年月が早く過ぎて行きますからねえ』という話をするようになる元凶は」についても深く同意させられました。そんな「心を律し『正しく考える』ためのトレーニング」についても、お坊さんである著者らしい「八正道」を引用しながらわかりやすく説いてくれています。「感覚に能動的になることで、心は充足する」という一説は、私の習慣の一部になり、心の安定に寄与してくれております。
第2章の「身体と心の操り方」は「話す」「聞く」「見る」「書く/読む」「食べる」「捨てる」「触れる」「育てる」に分けて、示唆に富む内容が盛り込まれています。「話す」では悪口がなぜ自分にとってマイナスになるのかを明快に説いてくれていますし、「嘘を積み重ねると頭が悪くなる!?」という理由にも妙に納得させられました。個人的には「捨てる」の節が好きなのですが、今回、改めて読み直してみて「失うのが怖いという概念が自分の負担を増す」「私たちは、欲によって『不必要なものをため込む』という傾向を持っている」という所有欲を消すことを実践できていましたが、「必要最低限のものだけ出しておくべき」ということは全く実践できておらず、「無自覚にものを増やしていくと、必然的に人格も悪化する」という言葉にハッとさせられました。「自我肥大させるお金から自由になる」ことは、事業が発展していく中で私が最も重要視していることですし、別の本で「弟子がお釈迦さまに『どうして貧しい人も布施(寄附)をするべきなのですか?』と問いかけた際、お釈迦さまが『貧しい人ほど布施をしなければならないのです』と説いた」ことも合わせて、モノの考え方次第で幸福度や事業、人生の成否なども含めて決まってしまうのだと思います。
「考えない練習」は、幸せを感じながら人生を生きるための、心の整え方を教えてくれる一冊です。