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『学問のすすめ』 -樋口智一の一冊-

「天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず」と言えり。

そんなこと言われなくてもわかっている、最初にそう思ったのを覚えています。でも、それは建前であって、実際には人には優劣があるではないか、同時にそんなことも思いました。この言葉が「学問のすすめ」の一節だということを知るのは数年後なのですが(汗)、初めてこの著書を読んだ時、あまりの衝撃的な内容に、二宮金次郎翁(今で言う歩きスマホ)状態で移動中も読み続けたことを覚えています。

「天は人の上に人を造らず、人の上に人を造らず」はあまりに有名な言葉ですが、その続きを知っている人は果たしてどれくらいいるのでしょうか。その先は「されば天より人を生ずるには、万人は万人皆同じ位にして、生れながら貴賎上下の差別なく、・・・(中略)・・・されども今広くこの人間世界を見渡すに、かしこき人あり、おろかなる人あり、貧しきもあり、富めるものあり、貴人もあり、下人もありて、その有様雲と泥との相違あるに似たるは何ぞや。」と続きます。人はみんな同じなはずなのに、世の中を見渡すと、実際は立派な人もいれば愚かな人もいて、貧しい人や富める人もいるのはなぜか。それは「学ぶと学ばざるとに由って出来るものなり」と説いています。

でもその学ぶとは、「ただむつかしき字を知り、解し難き古文を読み、和歌を楽しみ、詩を作るなど、世上に 実のなき文学を言うにあらず」であり、「実なき学問は先ず次にし、専ら勤むべきは人間普通日用に近き実学なり」と実学を推奨しています。何のために学ぶのか、学ぶ目的を明確にして勉強することが、最も身につくとも説いています。

また「『天は富貴を人に与えずしてこれをその人の働きに与うるものなり』と。されば前にも言える通り、人は生まれながらにして貴賎貧富の別なし。ただ学問を勤めて物事をよく知る者は貴人となり富人となり、無学なる者は貧人となり下人となるなり」という通り、貴人、富人となる方法や、「自由自在なる者なれども、ただ自由自在とのみ唱えて分限を知らざれば我侭放蕩に陥ること多し」と自由と我侭(ワガママ)は違うことについても書かれていて、生きる上でとても参考になります。

その中でも、私の思想のベースになったのが、「自由独立の事は、人の一身に在るのみならず一国の上にもあることなり」という言葉です。「国を支えて国に頼らず」これは今の日本人には少々耳が痛い方もいらっしゃると思いますが、何かあれば国家に助けてもらうという発想ではなく、私自身が日本国であって、日本国というものがあって私がそこに何かしてもらう訳ではない、国民一人一人がそういう意識であらねばならない、という思想は私の人生においてはとても大切にしています。

幕末の歴史を眺めてみると、残念ながら開明論者では明治の扉を開くことはできなかったのも事実ですが、江戸幕府が天地同然だった時代に、学ばなければ乞食になるどころか植民地になってしまう、また文明の精神は多様性が前提であることなど、国民のために国家は存在するという感性を主張した福沢諭吉の先見性は天才というに値すると思います。

私は毎年、事業発展戦略書(今期は全173ページ)を自ら執筆するのですが、その最終ページに「学問のすすめ」の前書きを付録としており、独立自尊の精神を持って事業経営に取り組んでいます。