
私は経営者と呼ばれるのが嫌いです。
そのため、自分のことを事業家とか実業家と表現することが多くあります。その理由は「経営者という次元がつまらない」からです。こう書くと生意気だなと思われる方もいらっしゃるかと思います。なのでこのことを口にすることはあまりありません。もちろん経営者という存在を否定しているわけではなく、それはそれで立派でいいのではないかと考えています。ただ、私には経営者という仕事は向いてなく、異なる次元で限りある人生を生きたいと考えている、という話です。その思想というか、考えを私に与えてしまった本があります。それが今回ご紹介するリチャード・ニクソン著の『指導者とは』です。
この本を知ったのは政治家であられた、故 石原慎太郎氏の著書を読んだことがキッカケでした。日本経営合理化協会という経営者・事業オーナー向けの本を一万円前後という、びっくりするようなお値段で出版・販売している団体があるのですが、この団体のルールはたった一つで「ゴーストライターNGで、本人が全て書かなくてはならない」というものらしいです。その本たちの中に石原慎太郎氏の著書『真の指導者とは』がありました。興味があったので値段には不満を抱きつつ、しぶしぶ一万円を支払って購入し、読んでみて驚きました。私は石原慎太郎さんが大好きで、一般で売られている著書をよく読んでいたのですが、この本はこれまで読んできたものと文章が全く違ったのです。『真の指導者とは』を読みながら、石原慎太郎さんの天才ぶりに少し触れることができたと思いました。ただこの著書の中の多くが引用でした。その著書こそが『指導者とは』です。これからリーダーという立場になる方、また「リーダーとは」ということについて深めたい方は、10ページ程度ですが、ぜひ「偉大さについて」という第一章をお読みになることをお勧めします。「芝居が終わって幕が下りると、観客は劇場を出て家に帰り、日常の生活に戻る。しかし指導者の生涯に幕が下がるときには、それを見終わった観客の人生そのものが、開幕時とは異なったものになり、歴史のコースさえ一変している場合が多いのである」という文章を初めて読んで、私は憧れを感じました。「あなたが会った中で最も偉大な指導者とは?」という質問に対する見解は秀逸で、指導者を偉大たらしめる三つの必須条件などは示唆に富むと感じます。

そして私の価値観を決めた「経営者にとっては、事を正しくやることが目標であり、指導者にとっては正しい事をやることが目標だ」というウォレン・G・ベニス教授の言葉もここに出てきます。「歴史を学ぶのを怠った者は、歴史を繰り返す。逆に、一時代の指導者が先行者よりも遠く未来を見通せるのは、彼らが先人の肩の上に立つからだと言える」という言葉は、(私の記憶が正しければ)ビル・ゲイツ氏の『思考スピードの経営』で出会っていますが、この感性もリーダーには必須なのだと思います。
アメリカ大統領を経験したニクソン氏の歴史的な偉人たちについての考察も、教科書に出てくる人物というより、難局に立ち向かう一人の人間という切り口になっており、お勧めです。個人的には、シャルル・ドゴール氏の章が好きで、「アカデミズムの世界に住む政治学者は、往々にして知性を重視しすぎる。だが、指導者は必ず鋭い本能を持っていた、と、ドゴールは書いている。アレキサンダー大王は、それを「希望」と呼び、シーザーは「運」、ナポレオンは「星」と呼んだ。指導者が「ビジョン」を持っているとか「現実把握」が優れているというのは、つまりは時代の動きを本能的に察していることであり、ドゴールによれば、それは「物事の秩序の根源を衝く」能力なのだそうだ」という一説が大好きです。あと、日本人であれば「マッカーサーと吉田茂」もご一読されておくべきかと思います。
リーダーの皆さんが、先人の肩の上に立って未来を見るきっかけになれば幸いです。