真昆布、利尻昆布、日高昆布と、日本にはたくさんの昆布があります。見た目にも違いがあるものもありますが、何より味が異なるのです。たとえば、真昆布は旨味も香りも澄んでいると表現されますが、日高昆布は磯の香りが強く香りや旨みは弱めです。海で育つのも、北海道の海域で育つのも同じですが、黒潮、親潮や、海域ごとの生態系で全てが変わってくるという不思議は、日本の食文化を支え続けてきました。
ヤマダイ食品でも、味の世界を一段階上げていくために、常に出汁のあり方は模索しています。しかしながら、我々の技術はいわゆる料理店の技術とは異なります。そこで今回、外部から著名料理人をお招きしアドバイスを受けながら、出汁の取り方を一から学び直しました。目から鱗の連続で、味を最大化するための一手間の連続に大きな学びと反省を得ました。
そうしたノウハウを、既存の製品にもいかすべく、現在私たちは昆布だしをつかったメニューを開発し、あらたな「おいしい」を生み出すべくさまざまな研究に本格的に乗り出しています。とはいえ、出汁はすべての味の基本ですから、ほぼすべてのメニューに応用が効きます。とはいえ、”出汁の良さ”を体験いただけるメニューともなれば、良い素材を生かすメニューが多くなります。したがって、やはり素材の良さを売りにしたメニューとなり、どちらかといえば和食へと傾倒していくことになるのです。
昆布の危機
一方で、北海道を含め、昆布の生産には様々な危機が忍び寄っています。特に、和食の出汁を支える真昆布は、天然物の生産は10年前と比較すれば99%以上減少。1年養殖が市場の99%を占めるようになりました。日本沿岸部における昆布は、急激に絶滅危惧種となり、希少品となりつつあるのです。自然が生産するもの、人が生み出すもの、食にとっては味わいそのものに影響しますが、それ以上に、食文化のベースが揺らぎつつあることに対して、食品メーカーである私たちに何ができるのか考えざるを得ません。
私たちの食生活は、基本的にすべて生産者がいることで成立しています。さらにその前に遡れば、自然環境がなければならない。あまり好まれない農薬なんかだって、人が生産に関して困っていた課題解決のために生まれた人間の叡智です。なんといっても、日光も、水も、さらにいえば、自然のものを構成する分子や原子まで、私たちには作り出すことができない。どこをどうとっても、自然の力を借りながら、私たちは食べるものを量産していることに変わりはないのです。
ただ単純に「おいしい」といってものを口にできれば幸せですが、食品を社会に提供する私たちメーカーには、より強い自然環境に対する使命感が必要になっていることをひしひしと感じています。生産者にそっぽ向かれれば私たちには素材がきません、消費者にそっぽ向かれれば私たちには生活の糧である収益が入ってこなくなる。出汁という食材の根幹と向き合うことは、味の基礎であるすべてと向き合うことに他ならないのです。だからこそ、私たちは出汁を追求していきます。私たちもまた、変化する時代の中でどのようなメニューに出会えるのか。新しい発見とともに、前進してまいります。