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脳を満たす食事。

取材・文:Dishes編集部

梅棹忠夫。

梅棹忠夫は、20世紀における知の巨人として、世界的に知られている学者です。2010年に他界しました。生態学者、民族学者、情報学者など研究範囲は幅広く、京都大学名誉教授なども歴任し学術界では知らぬものはいないと言ってもいいでしょう。梅棹氏を一躍著名にしたのは『文明の生態史観』であり、社会的にベストセラーとして知られているのは『知的生産の技術』です。

梅棹氏の考えの一つに、生態的な進化と、文明的な進化は類似しているというものがあります。たとえば、どのような生物でも、まず内臓から先に出来上がり、次に外骨格が発達しますがピークを迎えると衰えていきます。しかしながら、脳はそのまま成長しつづけていくという特徴に着目し、文明も同様であると考えました。まず内臓を満たす産業である農業や漁業などが定着し、続いて外骨格を使うような土木、建築、工業が発展、最後の脳の産業である情報が発展すると説いたのです。

この考え方は、何もマクロ的な視点にだけ応用が効くのではなく、ミクロ的にも応用できます。たとえば、企業の黎明期は食べていくために頑張る時期です、続いてプロセスの定着を経て量産へとシフトする、最終的には経営や設計、分析といった脳を必要とする段階になります。他にも、1日の生活や、一つの作業、というように、どんどんミクロに分解していっても、この考え方は応用できます。

 

脳が得られる豊かさ。

「食」とは何かを語る時に、梅棹氏の考え方を応用することは有効な手段の一つだと考えられます。たとえば、食を楽しむためには生産が行われなければなりませんし、より美味しい食材を作り出すためには知恵や工夫、肥料や技術が求められます。効率の良い収穫方法や運搬方法、保存方法が進化することで、素材は全世界を駆け巡ることが可能となります。さらに、味わいを設計したり考案する行為は、これらすべてに影響を及ぼすことでしょう。料理人が提供する感動、家庭料理の豊かさ、多国籍な料理がいつでもどこでも食せる都市の発展など、食には、情報産業から内臓の産業までの全てがあり、同多発的に進化しています。これはもはや、人間文明の最前線のひとつと言いきってもいい。

また梅棹氏は、後から登場する産業が、その前にあった産業を劇的に進化させるとも説きました。たとえば、工業の発展によって生まれた重機によって、農業や漁業は飛躍的に進化することを意味します。食の発展はいまや、「内臓を満たし心身を健全に保つ栄養」というあり方に加え、「脳が得られる情報の豊かさ」をどんどん拡張しているように見えます。そして、食分野全体の進化が、冷凍技術、加工技術、加工機器、生産工場などの工業的進化をも強力に推進しているのです。我々はそうした現代を生きています。食を見つめることで、文明の可能性や位置を見極めることも可能なのかもしれません。

 

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