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食材の未来

もぎたての未来。<2> -多種多様-

取材・文:Dishes編集部

「もぎたてファクトリー」の黎明。

私たち最初のもぎたてファクトリー創設は茨城県で行われました。素材、そして人との出会いがきっかけです。素材は小松菜、人は藤田正三氏です。経緯はこうです。ヤマダイ食品が使用していた小松菜の品質が素晴らしかったことから、代表である樋口が産地である茨城を訪問します。この時、出荷していただいていたのが茨城中央園芸農業協同組合、その専務が藤田氏でした。

藤田氏が茨城中央園芸農協に入社したのは、30年以上前のこと。当時について藤田氏はこう語っています。「茨城中央園芸農協は私立の組合です。農協という名がついてますが、一つの中小企業だと言えばいいでしょうか。創業は私の義父によるものです。私はかつて商社に勤めており、海外赴任も経験しました。30代の時、義父の依頼を受け農協の継承を決め、茨城へと赴き入社しました。蓋を開けてみれば、経営状態も経理もなかなか難しい状態。地方の中小企業とは、多かれ少なかれそうした状況になりがちなものですが、当時の私は大きな会社しか経験がなかったものですから、義父に騙されたとすら思ったものです 。笑」 藤田氏は就任後、経営の整理整頓に取り組みつつ、地道に農家を訪ねながら一つ一つの課題を解決し、生産者とのつながりを増やし、品目の強化などに注力します。さらには、農作物の販路拡大にも注力。ちょうど、人工流入で拡大する東京都市圏に売り込みをかけるなど試行錯誤を繰り返しながら会社の基礎を固めていったのです。

そんな茨城中央園芸農協の歴史において、ヤマダイ食品はあくまで顧客の一社に過ぎませんでした。そこに、素材の良さに感動した樋口が現地に赴くことになります。藤田氏に、現地に樋口が訪れた時の印象をお聞きしました。「なんというか、それまでは取引先として名前だけしか見えてなかったので、樋口社長のインパクトはすごかったですね。前進させるエネルギーに溢れていたというか。私たちが扱っている小松菜の生産者のところに行き、もぎたての野菜をその場で食べてすぐ「ここに工場を作ります」と言ったのには驚きました。」

こうして、現地の生産物を加工することを主眼に考えた法人「もぎたてファクトリー」のプロジェクトがスタートすることになります。

 

茨城の3つの利。

茨城は日本でも珍しく平野部の方が山間部よりも圧倒的に多い県です。農家がひしめく地域に行けば、そのビニールハウスの数に圧倒されます。同時に、行き交う外国人作業者の数にも驚くことでしょう。「もぎたてファクトリー」の提携先である現地の農業法人の代表はこう語ってくれました。「うちで保有するビニールハウスは大体50棟くらい。このエリアでは普通だと思います。もっとたくさんのハウスを使って、大規模にやっている農業法人が何社もあります。ハウス栽培で野菜の栽培時期は伸び品質もよくなりますが手間がかかる。外国人労働者がいなければ、もうこの規模の農業を行なっていくことは難しい。彼らはしっかり稼いでいく。頼もしいですよね。」

 

こうした農家との連携は、茨城中央園芸農協が長年にわたり培ってきた財産です。現在、藤田氏は一線を退き、ヤマダイ食品と共同で立ち上げた、加工冷凍惣菜の販売を行う法人「茨城ハッピー食品」の取締役を努めています。農協の後を継いだのは、藤田さんの甥にあたる久信田 清人氏。久信田氏は「茨城もぎたてファクトリー」の共同代表でもあります。ここに、農業法人から素材を仕入れる「茨城中央園園芸農業協同組合」、工場での加工生産を主力にした「茨城もぎたてファクトリー」、さらには冷凍惣菜の企画販売をメインとした法人「茨城ハッピー食品」の3身一体体制が完成したのです。後者2社はヤマダイ食品グループとして、ヤマダイ食品から技術や経営的な支援を受けています。

久信田 氏に、茨城の強みについて聞きました。「まず、大都市圏に近く市場規模が大きなエリアへとすぐに出荷できることは大きなアドバンテージです。土地も肥沃で広い。これは何百年にも続く先人たちの並々ならぬ開墾努力があったからこそ。こうした志が継承され、現在でも経営意欲に溢れた農業生産者がいます。自分達の意思決定で投資や生産物をどんどん進めていけることで、経営革新も起こっている。大地の強みを存分に生かせる農業経営者の存在が豊富であることにこそ本当の強みを感じています。」茨城における、地の利、人の利に関しては申し分ない。そして、気候変動をはじめとする社会環境の変化にともない、「産地」という存在に対する天の利が動き出しつつある今、「茨城もぎたてファクトリー」の可能性が増大しています。

 

「産地」の数だけ。

産地は地方の数だけあります。環境によって育つものが異なり、日本全国で多種多様な品物が存在しています。実に魅力的です。ヤマダイ食品グループはようやく中堅に手がかかりそうな企業規模ですが、全国に提供する商品の量を考えた時の素材量は、1日だけでも数トンに及んでいます。

  

実際、小規模な加工所を備えている茨城もぎたてファクトリーだけでも、使用する野菜の量で数百キロに及びます。現場にいれば、毎日何往復も農家さんのトラックが収穫した小松菜などを運び込んでくる様子を見ることができます。ヤマダイ食品の人間として、茨城における全般に関わっているヤマダイ食品 地域ものづくり事業部 部長の上野拓朗 氏はこう語ります。

「私たちの会社オフィスは、東京、名古屋、福岡、LAなど、大消費地の近くにあります。ここでは、無数の情報に接していますし、さまざまなアイデアが生まれます。一方、現在ではネットを介して情報量は潤沢とはいえ、生産地にはまた異なる時間や情報が流れています。しかし、日々農産物は育つ。生産者は毎日、消費地の理屈ではなく、大地の理の中でより美味しいものと向き合っている。だからこそもぎたてファクトリーは、生産地ベースで消費地のニーズに応えていく体制を作ることがミッションなのです。簡単ではありません。農作物は天候リスクに常に晒されますし、収穫どきを間違えれば味が落ちる。消費地が明日欲しくても、明日いきなり作物は実りません。我慢も必要です。それでも私たちがここを選ぶ理由は単純です。もぎたての作物は美味しいのです。美味しいを社会に安定して届けるために、ヤマダイ食品グループは全力を注いでいるのです。」

現在、茨城もぎたてファクトリーは、稼働状況が伸び続けており、拡大を視野に入れております。現地でも肯定的な反応を多く得られています。また、もぎたてファクトリーに関して言えば、今全国では三重県と福岡県に1つずつ設立しています。すべて独立した法人であり、ヤマダイ食品グループです。まだまだ小さな芽ですが、各地で独自のノウハウを蓄積するために丁寧な運営を行っているところです。今後ますます、私たちは「もぎたてファクトリー」を増やしていく予定です。まずは青森において次なるプロジェクトが動いています。“もぎたて”は美味しい。美味しい加工食品をお届けするために、私たちの挑戦は続きます。

 

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