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外食の未来

「おいしい」とは何か

取材・文:Dishes編集部

「おいしい」の不思議

「おいしい」は不思議です。それは極めて複雑な要素から成り立っています。人の技術や道具の発達によって生まれる「おいしい」もあれば、素材の鮮度が生み出す「おいしい」もあります。空腹で仕方がないときに口にした時の「おいしい」もあれば、手を凝らしたものが生みだす「おいしい」もあります。毎日食べられる「おいしい」もあれば、たまに食べるからこその「おいしい」もある。でもどこにでも”幸せ”がついてくるという点は普遍的な共通点だと言えるでしょう。一方で、「おいしい」に至るまでの努力も無数に存在しています。農業、漁業、物流、加工、小売、飲食店にいたるまで、すべてが連携していなければ「おいしい」を作り出すことはできません。

 

伸びる食品市場。

2018年に農林水産省から発表された「平成29年度 食料・農業・農村白書」によれば、2011年時点における日本の食品関連産業は76兆3千億円の市場規模です。内訳は、農林水産物・食品は、国内生産が9兆2千億円、輸入品が10兆5千億円、あとは流通加工段階で加わるさまざまなサービスによって成立しています。国内最終消費における生鮮品等の割合は1980年と2011年を比較すると28.4%から16.3%に低下し、外食や加工品の割合は上昇の一途にあります。ますます、多彩な味わいが社会のそこかしこで誕生し、人々が楽しんでいる様子が数字からもうかがえます。

加工技術も目覚ましい発展を遂げてきました。調理器具もまた無数に存在しています。同時に、保存技術の進化も忘れてはなりません。特に、冷凍技術は食に巨大なイノベーションをもたらしています。季節問わずさまざまな食が楽しめるようになり、長期保管が可能になったことで、世界中にさまざまな食文化が広がることに強く貢献してきました。こうして世界の食品市場に目を向けてみれば、2015年には主要34カ国で890兆円の市場規模であるのに対して、2030年には1360兆円になると推計されています。新型コロナウイルスの影響で、2020-2022年は大きく落ち込みましたが、食品市場の長期的な成長に大きな影を落とすことにはならないでしょう。特にアジア圏の伸びは大きく、420兆円の規模から800兆円へと拡大することが予想されています。私たちは今、空前の食の時代に生きているのです。

 

憂慮すべき環境負荷。

一方で、憂慮すべき国際的な動きもあります。前身であるMDGs発足の2000年から数えて、20年以上が経過したSDGsは食品に対して厳しい姿勢を崩していません。たとえば食品分野全体で排出される温暖化効果ガスは、地球上で排出される分量の30%近くを占めています。さらに、食料生産にまつわる廃棄であるフードロスと、食料消費時の廃棄であるフードウェイストの改善も重要なテーマです。食料は農地の問題とも紐づくことから、熱帯雨林の伐採や過剰生産による貧困問題の深刻化といった内容にもつながっています。もちろん、こうしたSDGs的な観点で食料分野を考えることは、地球環境を含めた視座に立った時には必要不可欠であることは言うまでもありません。

とはいえ、人間は食べなければ生きていけません。それはカロリーという観点でも、栄養素という観点でも厳然たる事実です。そしてなによりも「おいしい」という体験は、生きることを豊かにしてくれるものです。私たち人類は、あらゆる方面の事柄を考えながら持続可能な「おいしい」を追求し続けることが求められています。

 

変化する「おいしい」。

こうしたすべての状況は、人が口にする「おいしい」に影響を与えてます。未だ我々が味わったことのない味わいが次々に生み出される現代においても、食材に対する罪悪感や忌避感が生じてしまえば、味として「おいしい」ものでも、結局人は心より幸せを感じて口に運べなくなってしまうでしょう。つまるところ「おいしい」をしっかり感じられるように提供し続けることは、地球のことを考えることであり、社会のことを考えることそのものであると言えます。成長への適合も、地球環境への適応も、すべては人々がこころより「おいしい」を言うために必要不可欠なものなのであり、人が安心して「おいしい」を体験するための品質なのだと言えます。

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