MAIN DISH
食材の未来

もぎたての未来。<1> -産地-

取材・文:Dishes編集部

構造の危機。

随分と長きに渡り、都市優位の社会構造が継続されてきましたが、気候変動という全く新しい危機に際し社会の価値観が大きく変換されようとしています。端的に地方が対処できる問題の深刻さが増しており、都市をはじめとする「マーケットのため」という論理にヒビが入りつつあるのを感じます。

たとえば気候変動。これが、本当に人間の社会活動による気候変動なのか否かは正直後世に判断してもらうしかなく、我々は科学的な知見から生まれる報告を信ずる以外の方法がありません。しかしながら、SDGsに代表されるように、世界の流れはすでに気候変動対策へと舵を切っておりこの流れが止まることはないでしょう。事実、さまざまな地域で現実に起こっている気候異変はごまかしようのないものです。

特に、どの産業においても、豪雨の課題は深刻です。損害保険を一例に挙げましょう。昨今の日本では、全国あちこちで水害が頻発し、この数年損害保険の支払額が市場最高を更新し続けています。これによって、新たな損害保険の金額、補償の見直しが随時行われており、ちょっとやそっとではないレベルで高騰し続けています。そのため、どの産業の経営者も、保険料の上昇と補償の間で苦慮しているケースが増加しています。

農業に関しては、より深刻です。なにせ工場のように、大地は移動させることも、高台に上げることもできません。今では、全国でさまざまな作物が生産されるようになり、ここがダメならこっちから仕入れればなんとかなる、という体制が作り出されているため、都市部で農産物に困ることはほとんどありません。しかし、この状態が維持できるかが不透明になりつつあります。同時多発的に頻発する豪雨によって、新たな病害、生産者の経営断念などが相次ぎ、生産できなくなる可能性がどんどん高まっています。農業経営はこうしたリスクも考えて、生産量、収益、利益を考えなければなりません。要は、経営レベルをどんどん上げていく必要があるのです。これはどの地方でも同じことが言えるでしょうし、さらに世界的にみても同様でしょう。

 

ローカリティの覚醒。

言うなれば、ローカルは危機に際して覚醒していかなければならないのです。課題だらけではありますが、時代的には追い風です。ネットの進化は止まらず加速し続けていますし、新しい商品の売り方や消費者とのつながり方も次々に生まれています。都市部でもローカルでも、より豊かな味わいを作り出す動きは加速し、素材としての農作物には常に高い注目が集まります。高まり続ける国際的な政治や経済の不安定さも、生産者にとってはピンチというよりはチャンスかもしれません。人類にとって「食糧の確保」は常に至上命題であることを先進諸国の都市部では忘れがちですが、見直す機運も高まりつつあります。

一方で、都市にとっては良い影響も悪い影響もあります。巨大な市場としての優位性が少しずつ下がる可能性があることも一因です。資源国と非資源国の関係が、ほんのわずかな変化によってすぐ逆転することがあるように、食糧課題もまた社会状況次第で優位性に入れ替わりが頻繁におきることでしょう。これにどのように応えていくのか、真剣に取り組むべき課題です。特に「食べ物」は必需品であり、そこに関わるすべての人たちにとり、この状況は巨大なチャンスに他ならないのです。

 

もぎたての未来。

だからこそ私たちは「もぎたてファクトリー」を立ち上げ、ローカルにおける食糧生産の覚醒にコミットしてきました。「もぎたて」というのは、収穫してすぐを意味する言葉であることは周知の事実です。現在、もぎたてが可能なのは生産地です。大地から生み出される収益より、集約された頭脳が生み出す収益が圧倒的に巨大となった都市において、大地を農地として活用するコストは非現実的なレベルになり、都市の真ん中における農業生産は「食べ物供給」という意味をほとんど有していません。

したがって、大量の農産物や漁獲物に関していうならば、基本的にローカルが主戦場となります。では鮮度はどうでしょうか。交通網の発達、高速化、冷凍冷蔵保存の目まぐるしい進化の結果、鮮度の維持は信じられないほどのレベルに到達しています。冷凍した魚を解凍してお刺身で食べるなんてことは全く普通のことになりました。しかし、これはもぎたてではありません。

本当のもぎたては、ある意味その土地にいかなければできないことであり、都市生活者が人口の圧倒的多数を占めつつある世界において、最上の贅沢の一つになりつつあります。もぎたてが可能な土地に、優れた料理人がいればそれは観光地とすらなり得ます。事実、ヨーロッパ各地のミシュラン3つ星レストランの多くは産地の近くにあります。オーベルジュです。もとより、熟成させることで味わいが深まる食材などは、特段産地の近くになくてももちろん良いでしょう。しかしながら、総合的な感覚を総動員して楽しむ食の分野においては、すべてが熟成させれば美味しくなるわけでもありません。鮮度に勝るおいしさがないものもたくさんあります。つまり、値段、期間、手法、選択肢のどれをとっても、産地のアドバンテージは強く大きなものであることに変わりはありません。

ローカルの覚醒は、もはや必然であり自明であると私たちヤマダイ食品グループは考えています。私たちが最初に「もぎたてファクトリー」を作ったのは茨城。特徴的なのは、”その産地のもぎたて”であることです。茨城では小松菜やほうれん草の農家さんが多くありますから、その素材を使った加工品を作るのです。これが、別の土地であればその土地が「産地」である素材をもぎたて状態でファクトリーに持ち込むのです。つまり、私たちの「もぎたてファクトリー」は産地の数だけ存在しているべきなのです。そして私たちはそのために動き出しています。

類似のタグがあるコンテンツ