2nd DISH

ヤマダイ食品 代表 樋口智一 -2-

味と冷凍。

営業本部創成の時についてお話ししましょう。そもそも私が大学卒業時にしたことは、少々破天荒だったかもしれません。私は、先代が朝から晩まで、がむしゃらに働いていたのに豊かになれないのはなぜか?という疑問を、幼少期から常に考えていました。その問題意識に対する一つの答えを実践しました。それが、本社のある四日市市内で一番高いビルの最上階にオフィスを借りての営業本部創設だったのです。とはいえ、先代に何も相談することなく自分だけで契約や新入社員採用をして、頭金は私が大学時代に立ち上げた会社から仮払いをしたので、先代はまさかこんなことになっているとは思っていなかったようです。取引先さんたちはバカ息子の暴挙に見て見ぬふり、新入社員が突然入社してきて相当驚いていましたし、先代は目が飛び出るほど怒っていました。でも結果的に、数年で収益面での効果が出ていることが顕著になり、現在のヤマダイ食品の礎を成す重要な出来事となりました。2年後、名古屋に営業オフィスを移転したのですが、その時には取引先さんからの贈り物が床から天井まで積み上がったのを思い出します。自社内はもちろん、関わる方々のヤマダイ食品に対する認識が改められ、品質面なども含めて、極めて複合的な要因が重なり、自立した企業に向けて歩み出せたと思います。この出来事は、自分の行動に確たる信念を抱かせてくれました。

私が入社した当時は下請けの惣菜会社として、いろいろなものを作っていました。そこから野菜を中心とした惣菜メーカーへ脱皮するため、様々な努力と工夫を積み重ねてきました。百年続けた歩みの中で培ってきた味わいと食品品質には自負があります。同時に、ヤマダイ食品にとってのエポックとなった冷凍技術は可能性に満ち満ちています。そもそも冷凍技術は「味わい」の時間的な制約を大幅な軽減を実現する先端技術です。食材の長持ちだけではなく、おいしく楽しめる時間の創造が可能になったことは、食の世界における大きなイノベーションです。これは、世界各地で生まれた現地の風味を、いつでもどこでも楽しめるようになることを意味します。フードロスという観点からも環境問題にとって大きなメリットがあります。食材を無駄にせず、料理や味つけなどに用いられる人間の知恵と労力までも無駄にすることはありません。「おいしい」の創造につながる開発技術と、味を長持ちさせる時間の創造につながる冷凍技術、この両輪はヤマダイ食品にとって大きな武器となっています。

 

緊急事態が磨いた可能性。

新型コロナウイルスによって緊急事態宣言が発出された2020年4月。3ヶ月前に25億円を投じた新工場が竣工したばかりのタイミングでした。ご存知のように、旅行業界、外食業界は巨大なダメージを負いました。もちろん我々も例外ではありません。旅館、ホテル、居酒屋を主戦場に成長を続けていた我々は、突然、売上の約70%が消失しました。これは潰れるかもしれないと覚悟しました。逆に、気持ちは高揚していました。これまで以上に大きなチャンスが現出するであろうと。そして結果的に我々はイノベーション環境を手に入れることになったと考えています。生き残るために無我夢中でそれぞれが動きました。私も考え抜いて、これまでになかった方法論や手法に通じました。今の我々は、新たな食の分野を切り拓いていく可能性を手に入れ、力強い知恵と戦略に満ちています。

例えば、従来事業で余剰した社内リソースを活用して、すでに投資を始めていた植物由来のタンパク質を活用した代替肉の開発はもちろん、和ではなく洋惣菜の開発に経営資源の注力をしました。またグループ企業である茨城もぎたてファクトリーが我々の新業界進出とうまく噛み合い、我々はスーパー業界、ベーカリー業界、高齢者施設、産業給食などなど、あらゆる業界に進出するキッカケとなり、結果的に新たに大きな市場に挑戦する可能性を手にしています。そしてアメリカへの展開は一時ストップしましたが、米国を中心に海外展開を本格化します。また世界市場において農産品購入力をさらに高めていくアクションも継続していきます。なにより、我々はまだ若く時間があります。緻密な戦略をしっかり消化していけば、大きな成長が実現できると確信しています。

このコロナ禍で、家庭用商品の開発、初めてオンラインストアの試みなど社内には新しいノウハウが着実に蓄積されています。ウィズコロナと呼ばれる社会でも、世界は新しい食の姿には貪欲です。時代を牽引し、新しい「おいしい」を通じて「しあわせ」な笑顔を創り続けるために努力し続けることに躊躇はありません。30年後、50年後のヤマダイ食品の理想の姿に近づくべく、着実に歩みを続けていきます。

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