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日本食の未来

日本のネギは、グローバルサウスのパクチー

日本という国はもう理想郷だと言い切っていいと思います。海外事業に注力している私たちは常にそう感じます。逆にいえば、海外はそうではないがゆえにアグレッシブでアクティブです。そこにあるパワーは私たちを魅了してやみません。とはいえ、厳しい世界です。日本の安定性は世界では奇妙に映るほどですが、ゆえに、多様な味に対して貪欲でありながら、日本ナイズして、より理想郷の味わいに仕上げていく力があります。国際色豊かな味わいでも、日本の味になり、そこに触れる海外の人は、自分たちの国の味との違いに驚きつつも、受け入れることができるのだと思います。

一方で、私たちはどこかで凝り固まった文化性も持ち合わせていると感じます。たとえば先日、うなぎについてこんな記事がありました。とある欧米圏ではうなぎが川にいるのですが食べることはないようです。川魚でおいしくなく、しかもちょっと気持ち悪いということのようです。で、日本に来た人がうなぎを食べるのに拒否反応を示したのですが、実際に食べてみたらすごく美味しくて感動した、日本ってすごい。簡単にいえばこんな記事です。もちろん何の変な箇所のない記事です。しかし、これで日本人はすこし自国に対して満足したり、海外に驚いたりしないでしょうか。すこし優位性を感じながら。

一方で、これはベトナムでの出来事ですが、現地の人の素晴らしい旬のご馳走として「カゲロウ」があります。ここにあるのがその実際の写真です。わかります?数百匹はいるであろうカゲロウが。なんならこれが二皿でてきました。とてつもない大歓迎です。なぜカゲロウがご馳走なのかといえば、ヤゴから羽化して、たった1日しか生きていられないためです。そもそも、徹底的に準備していないと採れない。その会食の席上でとある人は、もう10年以降これを食べてないと言って、喜んでいました。食べ方は、いわゆる中華風の味つけで、ニンニクと良質のラードで炒めた青菜炒めのような味わい。とても美味しいです。が、これを日本人に写真込みで伝えたところ、昆虫を食べるということに強い拒否反応を示し、拒絶するケースが多かったのです。なぜ、うなぎを食べる外国人に対してはそらみたことか日本はすごいんだ、というにもかかわらず、海外の人がうまいというカゲロウは拒絶するのでしょうか?

 

パクチーなんかでもこうした議論はよくあります。でも、パクチーなんて何十億人もの人が生活するグローバルサウスでは当たり前の食べ物です。日本で、そばにネギがついてくるのと変わらない。食べれる食べれないを誇るべきものですらありません。しかし、日本人はパクチーの議論が好きです。ただ、拒絶する人間は、やはり何十億人もの人たちをも拒絶しているのではないでしょうか。日本は平和なのです。それが議論できるほどに。

さて、海外マーケットを日本の食品企業である我々が考える時は、常にこの本質的な課題に直面します。我々がどのように現地を理解し、我々が提供する日本食を理解してもらうのか。素晴らしいのは、人間の「味覚」はシンプルにおいしい、まずいを把握することができます。しかし、文化の違いによってはそもそも口にできないものもありますし、味覚として全く異なる捉え方をするものもあります。ただ、私たちが「おいしい」と思うものを提供するだけではダメな場合もあります。だからこそ面白い。そして、日本食の可能性が、そうした異文化に触れるたびに革新されていくのを感じます。

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